2022 函館マラソン
「これは、暑くなる。大変だぞ。」
と思うと同時に本州出身の私にとっては
チャンスだと思った。
その根拠は何か?と言われてもわからない。
きっと自分の経験の中で
「水さえかぶっていれば身体が段々慣れてくる。」
という都合のいいメモリーが残っているからだ。
都合の良いメモリーは
世の中のあちこちに存在し
それは大概、冷静さを失っていることが多い。
その時々でシチュエーションは違うのに
都合のいいメモリーが行動を支配してしまい
抑えがきかない。
世間ではこういう人のことを『楽天家』という。
すでに、受付開始の6時30分の地点で
夏の日差しが照り付けている。
木陰を探したくなるような暑さだ。
本州から大会遠征で来たランナー以外は
この暑さの中でじっとしているだけでも疲れる。
なるべく、日差しの当たらない場所を
今日の待機場所にする。
ここは地元民の地の利を生かし
スタンドの屋根のかかっている場所を
待機場所としてとった。
芝生で寝っ転がりながら、仲間を応援するのも
気持ちがいいが、
日差しを遮るものがない芝生はかなり暑くなる。
『体が暑さに慣れていない。』
これが今日一番の問題であり、
キーになっていた。と気づいたのは後々、
ぐうの音も出なくなった状態で
このスタンドに戻ってきた時の事で
まだまだ先の話である。
7時を回りスタートまで2時間をきった。
徐々に人も増えてきてランナーの熱気で
さらに気温が上昇しているように感じる。
宇佐美さんの、
「そろそろ体動かしとくかな」
という言葉を合図にハーフ組がアップへ動く。
私もごった返すランナーを縫うように
千代台の競技場の周りでウォーミングアップ。
足底筋膜炎の症状は相変わらずで、
練習は満足にはできなかったが
ジョッグだけは続けてきた。
ジョッグさえ続けていれば何とかなる。
そんな淡い期待がバブリーに膨らんでいるのは、
はい、ご察しの通り
「ハーフで大きな失速ってあったけなあ・・・」
という都合の良いメモリーのせいである。
世間ではこういう人のことを、『のんきな人』という。
(だんだん口が悪くなってきたぞ)
のんきに準備していると
いつの間にか待機場所には、
フルにエントリーしている仲間だけになった。
「ここにいる人はみんなフルですか?」
と聞いたとき、そこにいた仲間が全員そろって
『あなたは良いわよね』という表情で
私の方を見たので、思わず笑ってしまった。
でも、その笑ってしまったことに対し
バチが当たることになるのは
まだもう少し先の話である。
8時30分、スタート位置へ移動。
芝生のフィールドは、幾分涼しい気もするが
それにもまして、
ランナーの熱気にあふれかえっている。
前回大会、前々回大会はコロナ禍で中止。
今回出場しているランナーは
2年前の前々回大会にエントリーした人たちである。
やっとここまで戻ってきたという
ランナーだけでなく大会を準備してきた人々
すべての思いが、今解き放たれようとしている。
そしてパンパンに膨らんだ閉塞感を
破裂させるように号砲が
函館の夏の空に鳴り響いた。
一斉にスタートするランナー。
実業団や学生などエリートランナーが
あっという間に函館の街の中へ消えていく。
この暑さだ。
『少し抑えて入ろう』という気持ちも
ちょっとは頭の片隅に置いておいたはずだが
財布や携帯と同じで
片隅になんか置いておいたものは
大体にして見当たらなくなる。
1k3分12秒。2k3分17秒。
速すぎる抑えろ。と思うよりも先に
「意外といけるんちゃうん」とおもってしまう。
あっ、ここで一句整いました。
「速すぎる それより早い オプティミスト」
その代償を払う為に
借金取りがやってくるのは
もうそう遠くはない少し先の話である。
3k3分35。4k3分36。
あれ、あれあれあれ。
このタイムを見た瞬間、急に暑さが増してきた。
暑い。暑いぞ。給水はまだか?
5k地点手前。
我が家のすぐ近くを通る。
ここに妻と末っ子がいるはず。
見つけた。反射的に被っていたキャップを
フリスビーのように投げる。
妻が末っ子に
「それ拾って」と指令を出す声が
ドップラー効果のように後方へ流れていく。
5kを17分05秒。
予定通りなのか、そうでないのかも
よくわからない。
タイム的には、予定通りなのだが
身体の状態が全く予定通りでないからだ。
5kごとの給水が、これほどありがたい
と思った事は、これまで
真夏の北海道マラソンぐらいしかない。
それほど、今日の給水は天国であった。
給水係にあたってくれた
ボランティアの人たちにも感謝しかない。
今日はじっとしてても暑かったはずだ。
9k手前にある湯の川の折り返し地点。
前半から私と同じように
突っ込み気味のペースで走っていた
ランナーが次々と失速していく。
折り返すと、後続のランナーが確認できる。
今回、私には個人的にマークしているランナーがいた。
チーム北極星の久村さんだ。
久村さんは北海道の力のある市民ランナー。
伊達でも辛うじて逃げることができたが
後半猛烈な追い上げにあった。
その久村さんが折り返して100mほど走った
ところで確認できた。その差は200mだ。
年代別で同じカテゴリーに入る久村さんが
この後追い上げてくることはわかっていた。
どこまで逃げれるか。
捕まったら終わりだ。
そんな追い詰められた逃亡者のような気持ちが
余計に暑さに拍車をかけた。
10kを34分35秒で通過。
この5kのラップは17分26秒。
このあたりから後ろからくる
ランナーのグループに
抜かれるようになった。
抜かれたら、その集団についていく。
集団で走った方が楽だからだ。
しかし同時に
どうも楽天的になれなくなってきた。
水をかぶれば暑さ忘れるという
都合の良いメモリーに
齟齬が生じていたからだ。
5kの給水ではそんなに感じなかったが
10k手前の給水であれおかしいぞと思った。
せっかく後ろからきた集団について
息を吹き返せたのに
なんだか今日は
水をかぶって給水すると
動きが重くなって逆に苦しくなるのだ。
13kの給水地点でそれは確信に変わる。
10kの給水の後、離れてしまった集団の
後に来た次の集団に再度入ったのだが
この集団ならいけると思っても
また給水地点を境についていけなくなったからだ。
湯の川の折り返し地点で私は
自分と久村さんの間にあった集団の数を数えていた。
確か2つしかなかったはずだ。
つまり、10kの給水と13kの給水で遅れをとって
しまった2つの集団の後ろにいるはずだった。
この次に来るのは、久村さんだ。
そんな焦りから
14K地点で今日初めて
後ろを振り返った。
きた!
もう後ろを振り返った地点で
気持ちの弱さが露呈しているのだが
私とは、まったく勢いの違うその姿を
見てしまっただけで
戦意を喪失してしまった。
あとは一陣の風のように
後ろから抜かれるのを
待つのみだった。
14k地点で今日のレースは終わった。
折れた心にペースを維持していくだけの
気力も体力も残っていなかった。
残り7kは長かった。
まるでフルの35k地点以降のようだった。
スタンドでフルを走る仲間を
笑ってしまったことが
今こうして我が身に降りかかっている。
20k地点を通過。何とか足だけは
動かしているが、歩いているといっても
過言ではない動きである。
時折意識が飛びそうになる。
本当に歩きたくなる。でもどんなに
歩きたくなっても、自分の中では
走っているという感覚で
身体を動かすことに
心と体の残りすくないエネルギーを注いだ。
もうろうとした意識の中で
なにがダメだったのかと考える。
暑さもあるが、これはみんな同じ。
結局はジョッグだけでハーフを走れるほど
甘くはないということだ。
「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし。」
名将、野村克也監督の言葉である。
負けるときは負けるべくして負けているのだ。
これは、本当にマラソンの教訓であり
失速したレースではいつも思うことである。
インターバルのリカバリーでも
もうちょっとスピード出てるやろという
よたよたな走りでゴール。
ぐうの音も出ない。
精魂尽き果てた。
先のゴールしていた宇佐美さんに
ねぎらいの言葉をかけていただく。
その言葉がありがたかった。
宇佐美さんは年代別の優勝と
還暦には全く見えない圧倒的な走りを見せた。
この人をどうみたら還暦なのか
不思議でならない。
勝ちに不思議な勝ちあり。
インタビューを受ける宇佐美さんを
置いてスタンドへ戻る。
待機場所へ戻るスタンドの階段が
絶壁のように見える。
誰がこんなに高い所に設定したのか。
(お前だ)
クーラーボックスに入れておいた
ビールを一気に飲み干す。
今日はこの至福のために
走ってきたといっても過言ではない。
結果が良くても悪くてもビールは美味い。
酔っぱらっているうちに
次々と仲間が帰ってきた。
そして口々にみんな同じことを言った。
連想ゲームならパーフェクトである。
「今までで一番つらかった。」
まさにその通りと
酔っぱらった私は胡坐を組んだ
膝をたたいて賛同した。
本当に今日は暑かった。
フルを完走した人はそれだけで
価値がある。
制限時間のぎりぎりにゴールした
森田さんは5時間以上この炎天下で走っていたのである。
二瓶コーチが言った。
「エリートランナーも市民ランナーも
きつさは同じ。きつさが同じなら
長い時間走っている市民ランナーは
速く走るエリートランナーに負けないぐらい
自らを誇って良いんだ!」
酔っぱらうと簡単に前後不覚の陥る人とは
思えないほど含蓄のある言葉だ。
明日、職場では足をひきずりながら
仕事をする人たちがいるだろう。
時折、身体の痛みに悲鳴を上げる人も
いるかもしれない。
でも、その痛みと引き換えに、
走ることを通して芽生えた誇りと
次の目標を確かに刻んだ胸を張り、
なぜだか顔だけは笑っている人たちがいるに
違いない。
そして、みんな、またきっと走りだす。
失速した人も、ゴールにたどり着けなかった人も、
これで終わるわけではない。
今日は暑さに体が慣れてなかっただけ。
暑さに慣れるころに行われる
北海道マラソンは全然行けるでしょ!
(ランナーにつける薬なし)
by naisen-k
| 2022-07-04 07:05
| 函館マラソン
|
Comments(2)
2025函館マラソンに向けて情報を発信していきます。
by naisen-k
| S | M | T | W | T | F | S |
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
| 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 |
| 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 |
| 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 |
| 29 | 30 | 31 |
カテゴリ
全体ランニング教室
函館マラソン
白糠町ロードレース
伊達ハーフマラソン
大沼湖畔駅伝
洞爺湖マラソン
千歳JAL国際マラソン
湯ノ岱温泉マラソン
八雲ミルクロードレース
奥尻島ムーンライトマラソン
北海道マラソン
札幌マラソン
道南駅伝
南北海道駅伝
黒松内町内一周駅伝
東北みやぎ復興マラソン
真駒内マラソン
東京マラソン
トラックレース
マラソン大会
故障・ケガ
朝練習のすすめ
トレーニング
マラソンに効く
函館・道南
アウトドア
自然
家族
とりとめなきこと
映画
函館山
釧路・道東
ノルディックスキー
音楽
ロードバイク
シューズ
食事
故郷
ケア
読書
トレイルラン
筋トレ
未分類
以前の記事
2026年 03月2026年 02月
2026年 01月
2025年 12月
2025年 11月
2025年 10月
2025年 09月
2025年 08月
2025年 07月
2025年 06月
2025年 05月
2025年 04月
2025年 03月
2025年 02月
2025年 01月
2024年 12月
2024年 11月
2024年 09月
2024年 07月
2024年 06月
2024年 05月
2024年 04月
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 06月
2023年 04月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 05月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 10月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 08月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2015年 04月
2015年 03月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2013年 12月
2013年 08月
2013年 07月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2011年 03月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
フォロー中のブログ
toriko秀岳荘みんなのブログ!!
アドリア海を臨み、日々の...
プルメリアンの部屋
最新のコメント
| vienna-apfel.. |
| by naisen-k at 05:41 |
| こんにちは〜。 3:4.. |
| by vienna-apfel at 08:14 |
| vienna-apfel.. |
| by naisen-k at 06:07 |
| こんばんは〜。 お風邪、.. |
| by vienna-apfel at 19:59 |
| vienna-apfel.. |
| by naisen-k at 18:14 |
| おはようございます! .. |
| by vienna-apfel at 06:36 |
| vienna-apfe.. |
| by naisen-k at 14:39 |
| Plumerianさん、.. |
| by naisen-k at 14:28 |
| 皆さんの笑顔が素敵過ぎま.. |
| by vienna-apfel at 21:08 |
| 最初、熊⁉️と驚きました.. |
| by Plumerian2 at 23:18 |






