こんな事ってある？って思う事が

人生には往々にしてある。

『こんな事って』の中身には

当然ながら良い方と悪い方があるが

今回は、悪い方だ（今回もだろ）

大会前日、千代台は競技場が

マラソンの準備で使えないので

生徒の練習を大森浜で行った。

私はマラソンの事を考え

走るつもりがなかったので

すっかり失念していたが

ここは去年足を挫き

辛酸をなめさせられた鬼門の場所である。

動きづくりのさなか

バウンディングの手本をみせようと

勢いよく砂を蹴った時だ。

ビシッ！あっ

左ハムストリングの裏側に

鋭い痛みが走った。

よりによって前日に

こんな仕打ちがあるのか

右の座骨神経痛だけなら

ｋ5分で走っていけそうな気がしていた。

練習は２週間前から少しづつ

距離をのばして１０ｋをｋ５分で

走れるようになってたからだ。

ファンランだがゴールする

イメージが出来上がりつつあり

少し大会が楽しみになってきた矢先の

できごとであった。

そして、明けて大会当日。

ついに『日本一過酷な不安ラン』の幕が開けた。

4時に布団から這い出て

恐る恐る階段を降りる。

「だめだ治っていない」

左足を下ろすたびにハムが伸びるので

痛い。どうするか。

とにかく朝ごはんをお腹におさめ

用意をして６時３０分千代台陸上競技場へ。

家の外へ出ると、雲が薄くかかっていて

吹く風が心地よい。

今日このままこの天気なら最高だが

それよりも気になるのは

当然、左ハムの炎症である。

どうすれば左ハムの炎症と

右ハムの座骨神経痛を抑えることが

できるのか。

痛み止めは飲まないつもりでいた。

マラソンに伴う筋肉の悲鳴も

ここまで苦しめられた座骨神経痛の痛みも

真正面から受けて立ってやろうと

思っていたからだ。

耳をふさがず聞く事が

例え傷つくことになったとしても

自分が自分だと思っている場所から

抜け出す為に必要だ。

「今日がそれだ！」と思っていたが、

仲間のために陣をとるさい

スタンドへあがる階段の１５段目で

すでにその心意気は挫け散り、

はたき込みを狙っている自分がいる。

『やはり今日は痛み止め飲まないと

　ゴールにたどり着けない。』

家にあったロキソニン錠は

忘れずに2錠もってきた。

鰻屋に入っても松竹梅の

竹のうなぎを頼む私は、

１錠分を齧って半分にし

きっちり1.5錠服用する

筋金入りの竹男である。

７時を過ぎて続々と

ランナーが集まってきた。

最終制限ランナーのペースメーカーを

するために東京から帰ってきた

坂井さんと話をする。

「たった１秒でも、関門閉鎖から遅れたら

　そこでレースをやめなくちゃならないの。」

「ええっ！文句とか言うランナーいないんですか」

「いるいる。泣く人もいるし。

　もう関門に間に合わないといってるのに

　『コンビニで買い物していいですか。』って

　自分の置かれている状況を

　分かっていない人もいる・・」

今日はへたすると坂井さんと村山さんに

尻を叩かれるかもしれない。

例え、そうなってもコンビニだけには寄るまい。

８時４５分。選手がスタート位置に着く

最終整列時間がやってきた。

今回は、昨年の東北みやぎ復興マラソンのタイムが

あったので、実業団・学生選手枠でエントリー。

ファストパスがあるので、優先的に前から

スタートできる。周りには

小山選手（HONDA),山川選手（駒沢大）

前田穂波選手（天満屋）小林選手（大塚製薬）など

そうそうたるメンバーがいる。

その中でひときわ目をひいたのは

松田瑞生（ダイハツ）選手だ。

ジャージを羽織ってはいるが

チャックは閉めていないので

トレードマークの腹筋がのぞいている。

こんな着こなしができるのは

松田瑞生かクリスティアーノ・ロナウドぐらいだ。

とにかくかっこよかった。

９時。今年からハーフ・フル同時スタート。

ものすごい勢いで抜かれていく。

勢いよく流れる川の濁流の中にいるみたいだ。

川の流れが止まったのは、３ｋ過ぎだ。

ここまでは、ｋ５分をちょっと切るぐらい。

練習では1度も出せていなかった５分切りが

レースなら簡単に出てしまう不思議。

人のだすアドレナリンってすごい。

今の所、痛みもなんとか

ロキソニンのせいかアドレナリンせいか

抑え込んでいる。

ハーフの折り返しを直進すると

空港への取り付け道路が見えてくる。

まずここから１０kまでが

最初の登りだ。

ペースはすでに５分を越えているが

１度５分をオーバーしてしまうと

もう気持ちがここからは

５分切らなくていいんだと楽になった。

沿道からの声援もうれしかった。

今日は十分に耳を傾け

そして反応する時間があった。

「頑張れー」

「頑張ってください！」

「ナイスラン！」

声援が途切れる事がない。

中には

「俺も走ったことあるんだ。

　だからそのつらい気持ちは

　痛いほど分かるよ！」

というお悩み相談室みたいな声援や

「おい！明日からの仕事も

　それぐらい頑張れよ！」

と力が抜けてしまうような声援もあった。

第２折り返しを過ぎると１５ｋ。

まだ足は持っているが

ここからは、

直近の半年走った事のない距離だ。

つまり走りきるための裏打ちは何もない。

あるとすれば、中学生から走り始めて

４０周年という記念事業で生まれる

特別な力しかない。経験と感覚を

信じて一歩また一歩と繰り出す。

今回、こんな状態でも走り続けられるのは

スライドするランナーとのエール交換が

大きかった。仲間とのエール交換が

特に力になった。

コスプレランナーもたくさいた

アリエルに白雪姫、バナナマンに

サラリーマン。

ドクタースランプアラレちゃんもいた。

「アラレちゃんキーンして！」

と声をかけると、空に響くような声で

「キーーーーン」と叫んでくれた。

長い空港横の道を過ぎて

漁火通りに戻ってくる。

左手にちょうど函館山が見えてきた。

函館山が目に飛び込んできた瞬間

ぐっとこみ上げるものがあった。

そして本当にその瞬間

函館に来て良かったと思った。

函館に来て１４年。

たくさんのいい縁があって

今を生きている。

そう思うと涙が出そうになった。

でも泣くのはまだ早い。

先はまだまだ長い。